大判例

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東京高等裁判所 平成4年(ネ)3567号 判決

第三五六七号事件控訴人(被告) Y1

第三五六七号事件控訴人(被告) Y2

第三五六四号事件控訴人(訴訟引受人) 上郷開発株式会社(旧商号 松里株式会社)

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 河合弘之

千原曜

大久保理

中小路大

久保田理子

上西浩一

清水三七雄

原口健

河野弘香

被控訴人(原告) X1

被控訴人(原告) X2

被控訴人(原告) X3

被控訴人(原告) X4

被控訴人(原告) X5

右五名訴訟代理人弁護士 奥野善彦

野村茂樹

滝久男

山中尚邦

井上由理

藤田浩司

佐藤りか

大西正一郎

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

一、当事者の求めた裁判

1. 第三五六七号事件控訴人ら

(一)  原判決中第三五六七号事件控訴人ら敗訴の部分を取り消す。

(二)  本件を浦和地方裁判所に差し戻す。

(三)  被控訴人らの第三五六七号事件控訴人らに対する請求を棄却する。

(四)  訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。

2. 第三五六四号事件控訴人

(一)  原判決中第三五六四号事件控訴人敗訴の部分を取り消す。

(二)  被控訴人らの第三五六四号事件控訴人に対する請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。

3. 被控訴人ら

主文と同旨

二、当事者の主張

次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりである。

1. 原判決事実摘示の訂正

(一)  原判決五枚目表三行目の「取得し」を「原始的に取得し」と改める。

(二)  原判決五枚目裏三行目の次に、次のとおり加える。

「5. 本件(一)の株券は、これを占有していたY1及びY2(第三五六七号事件控訴人ら)が訴外B・Cに預けていたところ、同人らから訴外有限会社国際産業情報社を経て訴訟引受人(第三五六四号事件控訴人)がその占有を取得したものである。Y1及びY2は、右株券を所有者の同意を得ずに持ち出した無権利者であり、右両名とBらの間には株式の譲渡契約はないから、Bらもまた無権利者である。Bらと訴外有限会社国際産業情報社との間及び国際産業情報社と訴訟引受人との間に株式の譲渡契約があったかどうか疑問であるが、仮にあったとしても、国際産業情報社及び訴訟引受人は、自己に対する譲渡人(Bらまたは国際産業情報社)が無権利者であることを知っていたか、知らなかったとしても、簡単な調査をすれば既に株式の帰属をめぐって訴訟が係属中であり上記の者が無権利者であることを知り得たもので、知らないことについて重大な過失があった。したがって、国際産業情報社も訴訟引受人も右株券を善意取得していない。」

(三)  原判決七枚目裏九行目の次に、次のとおり加える。

「4. 同5の事実のうち、訴訟引受人が有限会社国際産業情報社から別紙株券目録記載(一)の株券の占有を取得した事実を認める。訴訟引受人は、平成元年二月二八日国際産業情報社から上記の株券を買い受けたものである。Y2は、同人らの主張するように、Dから上記株式の贈与を受けたもので、無権利者ではない。仮に無権利者であったとしても、国際産業情報社及び訴訟引受人が、譲渡人が無権利者であることを知っていた事実はなく、また、知らないことについて重大な過失はない。したがって、国際産業情報社または訴訟引受人が善意取得したものである。」

(四)  原判決八枚目表七行目から九行目まで及び九枚目裏六行目から一〇枚目表六行目までを削る。

2. 第三五六七号事件控訴人らの当審における主張

(一)  被控訴人らは、通謀してD名義の公正証書の作成のための委任状を偽造したもので、Dとの関係で相続欠格事由があり、Dの訴訟承継人とはなり得ない。第三五六七号事件控訴人らは、このことを原審で主張したが、原審は、この主張があることを判決に摘示せず、またこの主張の当否について判断しなかった。そこで、本件を原審に差し戻すことを求める。

(二)  原判決は、昭和六三年五月八日Y1がDの病床を見舞った際、DがY2に株もやるし不動産の名義も書き換えようといったとしても、その言葉から直ちに確定的な贈与の意思表示をしたと認定することはできないとしている。しかし、昭和六三年二月一八日Dからその全財産につき包括的な管理処分権限を委任されたY1は、右のDの言葉を聞き、その後改めてDからY2に譲渡すべき具体的な資産内容・所有権の移転の原因と方法を確認して、その承諾を得た直後にDの代理人として、Y2と所有権移転に係る契約を締結して、それに伴う法的手続を経由したものであり、また、贈与の当事者間では贈与する財産を個別に表示しなくても特定したのであって、原判決の右の認定は誤りである。

3. 第三五六四号事件控訴人の当審における主張

原判決は、第三五六四号事件控訴人が名義書換手続をした最後の取得者に十分事情を確かめないで株式を購入したのは、重大な過失があるとする。しかし、譲渡制限株式で、かつ取締役会の承認がない場合でも、譲渡契約当事者間では譲渡の効力があるし、株券を所持している者は、適法な所持人であると推定されるのであるから、法的に最後の取得者への照会を必要とすることにはならない。また、非上場で、流通性に乏しく、市場価格が形成されていないこと、また、株式数が、発行済株式総数の二分の一を超えていることも、それだけでは、背後に重大な事情がありうることを推測させるものでなく、第三五六四号事件控訴人は、Y1が息子のY2を社長にするつもりで五〇パーセントの株を所有していたが、どうせY2を社長にできないのであれば、売ってしまいたいとして売りに出されたものであると聞いていたのであって、原判決のいうような紛争を予期するべき事情はなかったのである。

三、証拠関係〈省略〉

理由

一、当裁判所は、次のとおり付加訂正するほか、原判決と同一の理由により、被控訴人らの請求は、原判決主文記載の限度で、これを認容すべきものと判断する。

1. 被控訴人らの訴訟承継について

第三五六七号事件控訴人らは、D死亡による同人の訴訟承継について、被控訴人らは相続欠格事由があるので承継人になり得ない旨主張し、この点について、原判決が、事実摘示せず、判断を遺漏していると主張している。しかし、原判決には、右の控訴人らの主張の摘示があり、また、判決理由において、第三五六七号事件控訴人らの右主張は、事実の裏付けを欠くものである旨判示して、この点に関する判断を示しているのであって、判断の遺漏もない。そして、第三五六七号事件控訴人らが当審において提出した書証をみても、被控訴人らが通謀してD名義の公正証書の作成のための委任状を偽造したとの事実は認められないのであって、この点に関する第三五六七号事件控訴人らの主張は、採用することができないものである。

2. 昭和六三年五月八日のDからY2への贈与の有無について

昭和六三年五月八日の贈与があったとする第三五六七号事件控訴人Y1の供述(当審に提出されたY1の報告書(乙九)も同じ。)については、これを裏付ける証拠が十分でなく採用することができない。また、第三五六七号事件控訴人らの主張する昭和六三年二月一八日のDがY1に自己の財産全部の管理処分権限を委任したとの事実、Y1がDからY2に譲渡すべき具体的な資産内容並びに所有権の移転の原因と方法を確認したとの事実は、当時のDの病状や行動内容からみて、認めることができないのであって、結局、この点に関する第三五六七号事件控訴人らの主張は、採用することはできないものである。

3. 本件(一)の株券の善意取得の成否等について

本件訴訟提起の当時第三五六七号事件控訴人らが本件(一)の株券を占有していたことは争いがなく、本件(一)の株券がY2に贈与された事実を認め難いことは、前記のとおりである。そして、Y2の検察官に対する供述調書(甲四六)及び本件における弁論の全趣旨を勘案すると、本件(一)の株券は第三五六七号事件控訴人らからB・C及び国際産業情報社を経て第三五六四号事件控訴人に占有が移転されたものと認めることができる。そして、Y2の上記の供述調書及びCの司法警察員に対する供述調書(甲四七)によれば、B・Cは本件(一)の株券を第三五六七号事件控訴人らから預かったにすぎないものと認められるから、第三五六七号事件控訴人ら及びB・Cは、本件(一)の株券については無権利者であったものといわねばならない。

そして、B・Cから国際産業情報社への占有移転及び国際産業情報社から第三五六四号事件控訴人への占有移転が売買等の譲渡契約によるものであることを認定するに足る証拠はないが、譲渡契約がなかったと断定することもできない。

そこで、国際産業情報社及び第三五六四号事件控訴人が本件(一)の株券を取得するについて、自己に対する譲渡人(B・Cまたは国際産業情報社)が無権利者であることを知っていたか、知らなかったとしても、知らないことについて重大な過失があったかどうかを検討する。

国際産業情報社及び第三五六四号事件控訴人が、自己に対する譲渡人(B・Cまたは国際産業情報社)が無権利者であることを知っていた事実を認めるに足る証拠はない。

そこで、前記の過失の有無について検討する。第三五六四号事件控訴人は、原判決の指摘する事実があるとしても、重大な過失はない旨主張している。しかし、譲渡制限のある株式の場合、これを買い受けても、譲渡が承認されなければ会社との間では株主となることができないのであり、また、承認の見込みの薄い株式の場合には、これを転売するのに一般の株式に比して障害があることは否定できない。そうであれば、譲渡制限のある株式を買い受けるときには、その譲渡について承認を受けられるか否かの確実な見通しを得ようとするのが通常であって、そのような見通しを得ようとすれば、当該株式のそれまでの流通経路をたどり、その間の株式の譲渡の有無と取締役会の承認の可能性について情報を得るため、少なくとも発行会社や株券に記載されている最後の取得者(名義書換手続をした株主)に照会するなどの調査をする必要があることは、見やすい道理である。そして、本件の場合は、原判決の指摘するとおり、株券の記載からみて正規の名義書換手続を経ていない疑いのある者の名が株券に記載されてあるなど株券の記載それ自体に不自然な点があるほか、譲渡の対象となる株式の数が発行済株式の総数の半数を超えるという大量の株式の取引であって、前記の調査の必要性が高かったことは否めないところであるが、そのうえに、原判決挙示の証拠によれば、その株式を売ろうとして持ちかけてきた者が信用のおける会社等であるとはいえない状況があったといわざるを得ないから、上記の点の調査は、単なる譲渡制限のある株式を買い受ける場合よりも更に慎重であるべきであったのである。ところが、当時の第三五六四号事件控訴人代表者の証人調書(丙七)によると、第三五六四号事件控訴人が本件(一)の株券を買い受けるに当たって調査した内容は、発行会社である安全石油株式会社の資産内容のみで、単に取引の相手方が株券を占有しているかどうかについて注意を払っていたにすぎないものと認められるのであり、また、安全石油株式会社の前常勤監査役Eの陳述書(甲四三)によれば、国際産業情報社が本件(一)の株券を取得するに当たっても、上記の調査をしなかったものと認められる。したがって、国際産業情報社及び第三五六四号事件控訴人には、上記の点の調査を欠いたまま株券の占有のみに頼る取引をした点に、重大な過失を認めざるを得ないものである。

そうすると、本件(一)の株券について、国際産業情報社及び第三五六四号事件控訴人が善意取得したものとは認められない。

4. 本件(三)及び(四)の株券の帰属について

この点に関する当裁判所の判断は、原判決の理由三と同一であり、被控訴人X1が原始的に取得したもので、DがX1の名で取得したものではないものと判断する。

二、以上のとおり原判決は相当で、本件控訴は、理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 淺生重機 杉山正士)

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